私は企業の一社員として在宅で仕事をしており、在宅勤務のメリットを享受している一方で、成果を出しそれをうまく伝えられなければ何もしていないのと同然という立場にあります。そのため、思うように表現できない不甲斐なさとプレッシャーとの闘いに潰されそうになり、在宅勤務は精神面でもかなりのタフさが求められると感じています。
在宅勤務の話になるとインターネット環境やセキュリティなどハード面のことが注目されがちですが、それ以前に個人や企業の姿勢が非常に重要です。実際にやってみないと気づかないこともあると思うので、実践しながら感じていることをお伝えしたいと思います。
Contents
在宅勤務導入の壁 その1:成果の定義
成果とは「投入した努力」なのか「結果」なのか
最近ではIT企業をはじめ大手企業も模索しながら在宅ワークスタイルを取り入れようとしていますが、なかなか浸透しないのが現状です。情報を共有するためのテクノロジーを活用して遠隔でも仕事ができる環境を整えても、結局見えないところでその人の仕事をどう評価するか、ルールがなければ社員の理解は得られません。またコミュニケーションをどのように構築するのかも課題であり、評価基準の難しさとともに在宅勤務を導入する際のネックになっているのではないでしょうか。
以下の記事で書いたように、私も在宅ワークに際して難しいと感じているところもあります。
日本では生産性の問題がクローズアップされ、残業や休日出勤をいとわず多くの時間を投入することに意義があると考える風潮が問題になっています。つまり、「何を達成したか」よりも「どれだけ努力したか」に評価基準が置かれていることが多いため、仕事に対する姿勢や経過がみえなくなると企業は非常に困ってしまうわけです。まだ見える結果が出ればよいですが、もし、結果が伴わなかったとしたらどうでしょうか。
本人には「労力と時間をこれだけ注ぎ込んでがんばった!これだけやった!」という自負があります。それを証明するタイムカードも添えるかもしれません。しかし、上司は目の前の姿をみておらず、その努力がほんものかどうか実証できません。経過も結果も見えなければそもそも評価ができないわけです。
在宅勤務導入の壁 その2:責任の所在
投げたボールの責任は、投げたひとか受け取ったひとか
評価基準を仕事の経過ではなく、成果ではかろうという動きも出てきています。
成果がすべてであれば在宅ワークの評価に対する障壁も下がりますし、一気に浸透していくかもしれないのですがここにも課題があるのです。
それは、「成果」といっても人それぞれ認識が違うということ。
いや、成果なんだから結果でしょ。
できたか、できなかったか。白黒はっきりしているじゃない。
・・・そう思いますよね。でも、こんな場合はどうでしょうか。
最後にインターフェースのデザインをデザイナーにお願いしました。
デザイナーが仕事を進めなければシステムは完成しません。
しかし、デザイナーは各方面からも業務を依頼されています。
結局デザイナーのリソースに余裕がなくシステムは完成しませんでした。
「成果」をアウトプットでみるならば、このエンジニアの成果はゼロになってしまいます。
では、本人の気持ちはどうでしょう? ボールを投げたとはいえ、デザイナーも多忙だったのでそれを責めるわけにはいきません。でも自分ではどうにもならないところにボールがあったのだから、わたしのコントロール外だと主張したくなるのではないでしょうか。
「成果がでなかったのは、デザイナーの責任でもなく、かといって私の責任でもありません。私の手中にボールはなかったのでどうすることもできなかったのです。あくまでもデザイン前までを成果として評価していただけませんか?」
在宅勤務導入の壁 その3:伝える能力
結果を出すには高度なコミュニケーションが必須
「成果」を評価基準にするには、パスしたボールの行方を把握し、声をかけ、自分の元に戻ってくるまで責任をもつことが求められます。
そのためには同僚にいかに動いてもらうかがキーになるわけですが、「忙しそうだから無理を言えるような空気じゃない」「私の仕事を優先してなんて、そんな自己中的なこと言えない」など、日本人にありがちな考えが先に立ちなかなか行動に繋がりません。
ここでは企業に属した社員が在宅勤務をする場合を前提にしているので、完全にフリーランスとして自分ひとりで完結する仕事ならば、このような課題はないかもしれませんが、社員として働く以上、完全にひとりは考えにくく、どうしても関係者やチームの中で動く必要が出てきます。そのとき、成果に対する認識がひとりひとり違うことは、予想以上に大きな問題を生み出します。成果を出すための言動が、空回りし時には誤解され、正確な意思が伝わらずコミュニケーションがずれてしまうこともあるでしょう。
結局「成果」とはなにか。そこから意識合わせをする必要があるのです。
先のエンジニアが成果をだすためにはデザイナーを説得しなければならないかもしれません。
ただ「私の仕事を優先して」といっても、他の人も同じように結果をだすために自分を優先してほしいと考えているのです。
どのように伝えればよいのか、どうしたら伝わるのか。他人に動いてもらうには論理的な説明、仕事に向きあう誠意、成し遂げたいという熱意、価値を伝えるプレゼンテーションスキルそのすべてを動員しないと難しいのです。
このようなことは日本の学校では教えていません。トレーニングしていない日本人にとって、仕事の場で急にやりなさい、と言われてもそう簡単にできる人はいないです。現に成果基準や価値観をしっかり共有している現在の私の会社でも、頭ではわかっていても行動することの難しさを感じています。
このように日本で成果主義を浸透させるには、個人と企業の意識レベルの改革が必須です。
在宅勤務と成果は切っても切れない関係にあるので、まず「成果」に対する考え方を共有しなくてはいけません。結果をだすには大変高度なコミュニケーション能力が必要とされるため、本当の意味で成果主義を実践できている日本企業がどれだけあるのか私にはわかりません。でも、このハードルを超えないかぎり、いくらインターネット環境などハード面を整えたとしても、社員の在宅勤務を認め、進めていくのは難しいのではないかと感じています。
とはいえ「過労死」という言葉が輸出されるほど酷い労働環境を強いる日本の勤務スタイルはもはや存続できないでしょう。高齢化社会に突入したこの国は介護問題がこれから大きく膨らみます。優秀な社員を確保するためにどんな企業であっても在宅勤務制度の準備は今すぐにでも始めなければならないのです。
私自身も、そして現在私が勤務する会社も、来るべく状況に備えてすこしでも前進できるよう試行錯誤を繰り返しています。
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